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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)1349号 判決

原告 廣岡ちい

被告 文済春 外八名

被告 佐々木正光引受参加人 山崎章

被告 田中光男引受参加人 三村修

被告 五十風正春引受参加人 小林弘安 外一名

主文

1  被告文済春、同津島政秀、同津島聡一および同佐々木廣子は各自原告に対し、別紙物件目録第二記載の建物を明渡し、且つ、昭和四九年一月一二日から右明渡済まで一か月金二万円の割合による金員を支払え。

2  原告の前記被告らに対するその余の請求ならびに同被告らを除くその余の被告らおよび引受参加人らに対する請求はいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、原告と第1項記載の被告らとの間では、原告に生じた三分の一を同被告らの、その余を原告の各負担とし、原告と第1項記載の被告らを除くその余の被告らおよび引受参加人らとの間では、その全てを原告の負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告文済春、同津島政秀、同津島聡一および同佐々木廣子は各自原告に対し、別紙物件目録第二記載の建物を明渡し、且つ昭和四九年一月一二日から右明渡済まで一か月金四万円の割合による金員を支払え。

2  被告文済春、同金澤好美、同佐々木正光、同田中光男、同五十嵐正春、同株式会社丸喜商事および被告佐々木正光引受参加人山崎章、被告田中光男引受参加人三村修、被告五十嵐正春引受参加人小林弘安、同小林綾子は、訴外知久貞信に対して、別紙物件目録第一(一)および(二)記載の各土地につき鉄筋コンクリート造建物所有目的、期間昭和四八年一二月二四日から満六〇年とする地上権設定登記手続をせよ。

3  原告と前項記載の被告らおよび引受参加人らとの間で、原告が別紙物件目録第一(一)および(二)記載の各土地について有する同目録第二記載の建物の所有を目的とする地上権の存続期間は昭和四八年一二月二四日から満六〇年、その地代は月額金八〇〇円と定める。

4  仮に第二および第三項の請求が認められないときは、原告と第2項記載の被告らおよび引受参加人らとの間で、原告が別紙物件目録第一(一)および(二)記載の各土地について有する同目録第二記載の建物の所有を目的とする賃借権の存続期間を昭和四八年一二月二四日から満六〇年、その地代は月額金八〇〇円と定める。

5  訴訟費用は被告らおよび引受参加人らの負担とする。

6  第1項について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  (請求の趣旨第1項に関して)

(一) 別紙物件目録第二記載の建物(以下「本件建物」という)はもと被告文済春(以下「被告文」という)が所有していたものである。

(二) その後、本件建物は後記2(三)のとおり、訴外知久貞信(以下「訴外知久」という)がこれを競落して所有権を取得し、次いで後記2(七)のとおり、原告が昭和四九年一月一〇日に右知久からこれを買い受け所有権を取得するに至つた。

(三) しかるに、被告津島政秀・同津島聡一・同佐々木廣子(以下「被告津島ら三名」という)および被告文は、いずれも本件建物を昭和四九年一月一二日より前から何らの権原もなく不法に占有している。

(四) 本件建物の使用料は一か月金四万円が相当である。

(五) 従つて、被告文および同津島ら三名は各自原告に対し、本件建物を明渡し、且つ原告が右建物の所有権を取得した日の後である昭和四九年一月一二日から右明渡済まで一か月金四万円の割合による使用料相当の損害金を支払うべき義務がある。

2  (請求の趣旨第2項に関して)

(一) 昭和四四年三月二七日、被告文は訴外大洋信用金庫(以下「訴外金庫」という)との間で、本件建物につき元本極度額を金一五〇〇万円とする根抵当権を設定する旨の合意をなし、翌二八日右金庫のために当該根抵当権の設定登記を了した。

(二) ところで、本件建物の敷地である別紙物件目録第一(一)および(二)記載の各土地(以下「本件土地」という)は、本件建物に前記根抵当権設定登記がなされた当時、本件建物と同じく被告文の所有に属していたものであるが、その後、当該土地の一部(各持分二三分の一宛)は、別表(一)記載のとおり、被告文から被告金澤好美・同佐々木正光・同田中光男・同五十嵐正春(以下「被告金澤ら四名」という)および被告株式会社丸喜商事(以下「被告丸喜」という)へと売り渡されていずれも所有権一部移転登記が了され、結局本件土地は、被告文(持分二三分の一八)、同金澤ら四名(各持分二三分の一、合計持分二三分の四)および同丸喜(持分二三分の一)の共有となつた。

(三) 昭和四七年九月一日訴外金庫は、東京地方裁判所に対して前記根抵当権に基づき本件建物の競売(同庁昭和四七年(ケ)第六〇一号事件)を申立て、当該競売手続の結果、訴外知久がこれを競落するところとなり、昭和四八年一二月二一日同人は競落代金を完済してその所有権を取得し、同月二四日右競落を原因として所有権移転登記を了した。

(四) そこで、訴外知久は、本件建物の競落に因り、本件土地について法定地上権を取得したというべきであり、当該土地の共有者である被告文、同金澤ら四名および同丸喜に対して右地上権(本件建物の所有を目的とし、存続期間を、昭和四八年一二月二四日から満六〇年とする。)の設定登記手続を求める権利がある。

(五) もつとも、被告金澤ら四名のうち被告金澤好美を除くその余の被告らは、その後別表(二)記載のとおり、同被告らが有する本件土地の前記持分を引受参加人らに売渡し、それぞれ所有権一部移転登記を了している。

(六) すると、引受参加人らは、本件土地の持分取得に因り、右被告らの訴外知久に対する前記地上権の設定登記手続をなすべき義務を承継した。

(七) 前述のとおり、昭和四九年一月一〇日原告は訴外知久から本件建物を買受け、同月一二日所有権移転登記を受けたが、右売買により、右知久が本件土地につき有する前記地上権をも譲受けた。

(八) 従つて、原告は訴外知久に対して前記地上権の移転登記手続を求める権利がある。

3  (請求の趣旨第3項に関して)

前記地上権の権利者である訴外知久(ひいては原告)と、義務者である被告文、同金澤ら四名(さらには引受参加人ら)および同丸喜との間には、当該地上権の地代および存続期間について何ら協議されていないが、右地代は月額金八〇〇円をもつて相当とし、また、右存続期間は、当該地上権が本件建物の所有を目的とするところ、当該建物が堅固な建物(鉄筋コンクリート造)であることからすれば、右知久が本件建物の所有権移転登記を経た昭和四八年一二月二四日から満六〇年とされるべきものである。

ここにおいて、現在の権利者である原告は、民法第三八八条但書および同法第二六八条により、自ら直接に(訴外知久を代位することなく)、裁判所に対して前記地上権の地代および存続期間が原告と各義務者との間で前記のとおりであると定める旨を訴求しうるというべきである。

(請求の趣旨第4項に関して)

仮に本件建物の競落に因り訴外知久のため本件土地につき法定地上権が成立しないとしても、

本件のような場合においては、民法第三八八条の立法趣旨に鑑みて、本件建物を競落した訴外知久のためにその敷地である本件土地を利用しうる法的保護が与えられるべきであつて、立木ニ関スル法律第六条・第七条あるいは国税徴収法第一二七条第二項の趣旨を類推して、右知久のために本件土地につき本件建物の所有を目的とする賃借権(所謂「法定賃借権」)が成立したものと看做すべきである。

ここにおいて、右賃借権を承継(その原因は前記2(七)に同じ)した原告は、前記3と同様に、裁判所に対して被告文・同金澤ら四名(さらには引受参加人ら)および同丸喜との間で右賃借権の地代が月額金八〇〇円、存続期間が昭和四八年一二月二四日から満六〇年であると定める旨を訴求しうるというべきである。

5  (むすび)

よつて、原告は、

(一) 本件建物の所有権に基づいて、被告文および同津島ら三名に対して、本件建物の明渡しと、昭和四九年一月一二日から右明渡済まで一か月金四万円の割合による使用料相当の損害金の支払を、

(二) 訴外知久に対する本件地上権移転登記手続請求権を保全するため、同人に代位して、被告文・同金澤ら四名・同丸喜および引受参加人らに対して、本件土地につき鉄筋コンクリート造建物所有目的、期間昭和四八年一二月二四日から満六〇年とする地上権設定登記手続の履行を、

(三) 本件土地の地上権者として、原告と右(二)記載の被告らおよび引受参加人らとの間で、当該地上権の存続期間ならびに地代を請求の趣旨第3項記載のとおりと定めることを、

(四) 仮に右地上権が認められないときは、本件土地の賃借権者として、原告と前記被告らおよび引受参加人らとの間で、当該賃借権の存続期間および地代が請求の趣旨第4項記載のとおりと定めることを、

それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1について

(被告文および同津島ら三名)

同(一)の事実および同(三)のうち占有の事実はいずれも認めるが、右占有が何らの権原のない不法なものであることは否認、同(二)および(四)の各事実はいずれも不知、同(五)の主張は争う。

2  請求原因2について

(被告文および同丸喜)

同(一)および(二)の各事実はいずれも認めるが、同(三)および(七)の各事実はいずれも不知、同(四)および(八)の各主張はいずれも争う。

(被告金澤ら四名および引受参加人ら)

同(二)および(五)の各事実はいずれも認めるが、同(一)、(三)および(七)の各事実はいずれも不知、同(四)、(六)および(八)各主張はいずれも争う。

3  請求原因3について

(被告文、同金澤ら四名、同丸喜および引受参加人ら)

同主張は争う。

4  請求原因4について

(被告文、同金澤ら四名、同丸喜および引受参加人ら)

同主張は争う。

5  請求原因5について

(被告らおよび引受参加人ら)

争う。

三  抗弁(被告津島ら三名)

被告津島ら三名のうち被告津島政秀を除くその余の被告らは、訴外金庫が本件建物について前記根抵当権を取得する以前の昭和四四年二月一〇日に、被告文から本件建物を期間一〇年、賃料月額合計金八万円(但し、被告津島聡一につき金六万円、同佐々木廣子につき金二万円)との約定により賃借し、その後当該建物の引渡しを受け、爾来これを使用しているものであり、また、被告津島政秀は被告佐々木廣子の了解のもとに、本件建物を使用しているにすぎないものである。

従つて、被告津島らは、前記根抵当権実行に因り本件建物を競落した訴外知久、さらに右知久からこれを買受けた原告に対して、前記賃借権をもつて対抗しうるというべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁前段の事実は否認し、後段の主張は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

第一請求原因1に対する判断

一  本件建物がもと被告文の所有に属していた事実は当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一号証によれば、昭和四四年三月二八日本件建物には訴外金庫のために同月二七日付の根抵当権設定契約を原因とする当該根抵当権設定登記がなされていること、昭和四七年九月五日右金庫の申立により当庁において同月一日付で競売手続が開始された旨を示す任意競売申立登記がなされていること、昭和四八年一二月二四日訴外知久のために同月六日付の競落を原因とする所有権移転登記がなされていること、昭和四九年一月一二日原告のために同月一〇日付の売買を原因とする所有権移転登記がなされていることが、それぞれ認められる。されば、昭和四九年一月一〇日以降本件建物が原告の所有に属しているというべきである。

二  しかるところ、被告文および同津島ら三名が本件建物を昭和四九年一月一二日以前から占有していることは当事者間に争いがないから、以下同被告らの当該建物に対する占有権原の有無について検討する。

被告文に関しては、右占有権原として何らの主張もないので、同被告の本件建物に対する占有が不法なものであることは論を俟たない。

被告津島ら三名は、抗弁として「同被告らのうち被告津島聡一および同佐々木廣子は、被告文が訴外金庫のために前示根抵当権を設定する以前の昭和四四年二月一〇日に、被告文から本件建物を賃借し、その頃引渡しを受けて、以来これを使用(占有)しているものであり、また、同被告らのうち被告津島政秀は、右賃借人の一人である被告佐々木廣子の了解の下に、本件建物を使用(占有)しているにすぎないから、同被告らは、右賃借権をもつて、その後に本件建物の所有者となつた原告に対抗しうる。」旨主張し、乙第二号証の記載中および被告文済春・同津島聡一・同佐々木廣子の各供述中には、右主張に沿う記載ないし供述部分が存する。

しかしながら、乙第二号証は真正に成立したと認められないので証拠資料足りえない。また右供述部分は甲第五号証に照らしていずれも措信できないものである。しかも、他に右主張を肯認すべき証拠も存しない以上、被告津島らの抗弁はこれを採用するに由なく、同被告らの本件建物に対する占有も不法なものであるといわざるを得ない。

三  されば、被告文および同津島ら三名は各自原告に対し、本件建物を明渡すべきは明らかである。さらに、前示占有により原告の蒙る当該建物の使用料に相当する損害を賠償しなければならないものであるので、その損害金額について考察する。

鑑定人深田敬一郎の鑑定結果によると、本件建物の昭和四九年一月一〇日当時の賃料は、月額金二万円が相当額と認められ、他に右認定を覆えすべき証拠は存しないので、右損害金額についても一か月金二万円の割合によつて算定するのが妥当である。

四  されば、原告の請求原因1の事実に基づく請求は、被告文および同津島ら三名に対して本件建物の明渡しを求める部分および同被告ら各自に対して原告が本件建物の所有権を取得した日の後である昭和四九年一月一二日から右明渡済まで一か月金二万円の割合による使用料相当の損害金の支払を求める部分については、理由があるといえるが、右割合を超えて使用料相当の損害金の支払を求める部分については失当というべきである。

第二請求原因2に対する判断

一  本件建物について訴外金庫のために根抵当権が設定されたことは既に説示したとおりである。また、右根抵当権設定の当時、本件建物とその敷地である本件土地とが共に被告文の所有であつたことは当事者間に争いのないところである。さらに、右根抵当権実行の結果、本件建物が競落により訴外知久の所有となつたことは、これまた既に説示したとおりである。

二  原告は、右事実関係の下で、「本件建物を競落した訴外知久のために本件土地につき法定地上権が成立する。」と主張するので、この点につき判断する。

1  本件建物は、弁論の全趣旨から明らかなように、それ自体が一棟の建物というのではなく、「建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という)」の対象である一棟の建物(別紙物件目録第二記載の「一棟の建物の表示」参照)のうちの専有部分の建物(以下「区分建物」という)の一に外ならず、しかも右区分所有の形態は所謂「横割り」の区分所有であるからして、その敷地である本件土地が、単に一の区分建物にすぎない本件建物の敷地としてのみばかりでなく、他の区分建物の敷地としても使用されていることは明らかであつて、ここに、通常の土地利用形態と様相を著しく異にする特殊性を認めないわけにはいかない。

2  そこで、一の区分建物が競落された場合に法定地上権が成立するか否かを考えるにあたつて、前示の特殊性を等閑視して、右建物とその敷地とが、右建物に抵当権が設定された当時、同一の所有者に属していたとの一事から、その競落人のために敷地について法定地上権が成立すると即断するのは早計である。

3  かかる見地に立つて、本件を考察すれば、一の区分建物にすぎない本件建物の競落人(訴外知久)が本件土地について法定地上権を取得することを容認するということは、とりもなおさず、その物権としての効力からして、他の区分建物の所有者が本件土地を使用する余地を奪うことを意味し、ひいては、他の区分建物の存立すら否定する事態を招来するものである。

4  このような事態は、建物の存立を全うさせ建物の社会経済的な効用を維持せんとする民法第三八八条の制度的意義に相容れないところであつて、到成一の区分建物にすぎない本件建物の競落人(訴外知久)のために、同条項を適用して、本件土地について地上権が設定されたものと看做す余地はない。

5  しからば、他の区分建物の所有者の本件土地に対する用益機能と牴触しない範囲で、本件建物の競落人となつた訴外知久のために当該土地に対する法定地上権の成立を認められるかといえば、この点についても消極に解するの外ない。

6  なんとなれば、本件のような横割の区分所有において、各区分建物の所有者の物権的あるいは債権的な敷地利用形態としては、各所有者がそれぞれ敷地に対して同一内容の使用権限を取得する形態、あるいは各所有者が共同して敷地についての使用権限を取得(準共有)する形態を想定することができるのであるが、前者については、さらにこれを再分して、(一)敷地自体について各自が他者の使用権限を排斥しえぬ性質をもつ使用権限を設定する場合と、(二)敷地自体を立体的に区分し、各自がその区分された敷地割合上に使用権限を設定する場合とが考えられる。前記(一)の排他性を有しない使用権限というものは、債権的な使用権限として設定するのは兎も角として、物権的な使用権限として同一の土地に対する他者の使用権限を排斥しえぬ地上権というものを容認することができない以上、民法第三八八条の適用によつて、このような排他性を欠く地上権の成立を擬制する余地はないものである。前記(二)の立体的に区分された敷地割合について使用権限として設定するというのは、その結果として成立する使用権限の効果は、右割合部分に止まることなく、敷地全体に及ばざるを得ないのであつて、当該使用権限が地上権であれば、その効果により、他者の敷地利用の余地を奪うに至り、前記3、4に説示したと同様、これを容認することができないというべきである。さらに、賃借権であれ地上権であれこれを準共有しうることに多言を要しないけれども、かかる合意のなく、かつ、本件土地上には本件建物の外に他の区分建物が存立しているという特殊な土地利用形態がなされている本件にあつては、本件建物とは別個独自の存在を認められる他の区分建物の所有者と本件建物の競落人(訴外知久)とが、他の区分建物の処分とは関係なくなされる本件建物の競落を機に、本件土地に対する法定地上権を取得(準共有)すると解するのは、立法論としては兎も角として、民法第三八八条の解釈論として当を得たものではないので、本件に同条を適用するのは相当でないというべきである。

三  翻つて考えるに、民法第三八八条は、その制定当時未だ区分所有法が制定されていなかつたことからして、一個(必らずしも一筆とは限らぬが)の土地上に一棟の建物が存立する場合を予定し、当該建物の社会経済的な効用を維持するとの趣旨から設けられたものである。されば、区分所有法の適用により一個の土地上に数個の建物が存立する場合を予定して設けられたものではない点からして、数個の建物のうちの一個の建物について民法第三八八条の要件が具備する場合に、当該建物の所有者(競落人)の敷地に対する利用権限として如何なる保護を与えるべきかについては、同条を適用して解決するのではなく、他の建物の所有者の敷地に対する利用権限との調整をふまえたうえで、立法により解決するのを至当とする。

かく解することは、本件建物の社会経済的な効用を脆うくすることになりかねないが、現行法上の保護としては、区分所有法第七条による敷地所有者からの売渡請求に応じて本件建物を処分するとの消極的措置に依ることで満足すべきであるといわざるを得ない。

四  されば、原告が請求原因2の事実に基づく請求は、現行法上では、その主張に係る法定地上権を認めることができない以上、前提を欠くものとして失当という外ないものである。

第三請求原因3に対する判断

前示説示のとおり、訴外知久のために本件土地につき法定地上権が成立したと解されない以上、原告の請求原因3の請求は、その余の点について判断を加えるまでもなく、理由のないことが明らかである。

第四請求原因4に対する判断

原告は、請求原因4として「本件において、訴外知久のために本件土地に対する法定地上権の成立が認められないとしても、立木ニ関スル法律第六条・第七条あるいは国税徴収法第一二七条二項の趣旨を類推して、法定賃借権の成立を認めるべきである。」旨主張するのであるが、法定賃借権という権利の発生を認めるには立法に拠るべきであり、立法のないところに、かかる権利の発生を肯定するのは相当でないので、原告の右主張はこれを採用することができないものである。

第五結論

以上の次第で、原告の本訴請求のうち、被告文および同津島ら三名に対して本件建物の明渡しと昭和四九年一月一二日から右明渡済まで一か月金二万円の割合による金員の支払を求める部分については理由があるのでこれを認容し、右被告らに対するその余の請求ならびにその余の被告らおよび引受参加人らに対する請求についてはいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条・第九二条・第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤原康志 山崎末記 滝沢孝臣)

物件目録

第一東京都大田区南蒲田二丁目所在

(一) 地番 一番九

宅地 九九・一七平方メートル

(二) 地番 一番一〇

宅地 一一七・三五平方メートル

第二東京都大田区南蒲田二丁目一番地一〇・九所在

(一棟の建物の表示)

鉄筋コンクリート造屋根五階建

一階 一四四・五二平方メートル

二階 一三九・〇三平方メートル

三階 一〇八・一九平方メートル

四階 一〇八・一九平方メートル

五階 一〇八・一九平方メートル

(専有部分の建物の表示)

家屋番号 南蒲田二丁目一番一〇の一四

鉄筋コンクリート造一階建居宅

五階部分二二・二七平方メートル

表〈省略〉

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